目次
ダイジェスト
・イランと中国の間で25年間の協定が成立し中国は資金提供の見返りにイラン産の原油を長期に安価で購入する
・中国はイラン産原油を日量100万バレル輸入中
・制裁前のイランの原油輸出量は日量250万バレル
・中国資金により油田開発が進む可能性
・スエズ運河の閉鎖は解消
イランと中国の協定
先週中国とイランの間の間で協定が成立したことで、この2つの話題が原油相場に与える影響について考えてみたい。
中国とイランは25年間の協定に署名し、中国政府はイランに25年間で約4000億ドルに及ぶ資金投資をする代わりにイラン産の原油や天然ガスを長期間に当たって安価に輸入する事が取り決められた。イランにとっては3年前からアメリカのトランプ前政権が行った経済制裁によって輸出が困難となっていたイラン産の原油を今後輸出可能になったことを意味する。中国にとっては比較的安価なイラン産原油を輸入する事で、調達先の多角化やアメリカ産原油や中東産原油の輸入を減らせると考えられる。

イランは制裁前に日量250万バレルの原油を輸出していた(産油量は約350万バレル)が、アメリカの制裁によって日量100万バレル程度まで減少していた。図1は中国のイランとマレーシア、オマーンからの原油輸入量を示している。中国がイラン(赤)から輸入がしていない月も目立つが、以前よりアメリカの目を避けるためにマレーシア産やオマーン産と偽ってイラン産原油を輸入しているとされており、調査会社によると中国はイラン産の原油を毎月日量約100万バレルのペースで輸入している。協定の成立で現在の倍の量となる日量約200万バレル、あるいはそれ以上の原油を中国はイランから輸入すると想定される。OPECの減産によって需給は一応のバランスを保っていると考えられるが、今後イランからの原油供給が増えることで下落要因が生じると考えられる。
今後の見通しと課題

図2は1950年代から2017年までのイランの原油生産量の推移となる。1970年代末のイラン革命前には日量600万バレルの生産があった。その後はアメリカの制裁や、核開発に伴う国連制裁で産油量は日量約400万バレルで推移している。2017年以降はトランプ政権の制裁で250万バレルまで生産が低下している。
世界第4位の埋蔵量を持ちながら十分な資金と技術がないため新規油田の開発が進まずイランの原油生産は低迷している。ただし、中国が資金と技術を提供する事になれば、開発と生産が進み、生産された原油が中国向けに供給されることになる。イラン以外の原油輸入量が減ることになると考えられ、長期的にも原油価格の低下要因になると考えられる。
世界の物流の懸案となっていたスエズ運河で座礁していたコンテナ船は日本時間29日正午前に離礁に成功した。閉鎖前にはスエズ運河を中東からヨーロッパに向けた原油が日量約170万バレル(ケプラー社調べ)通過していたが、約1週間に及んだスエズ運河の封鎖は解除される見込みとなった。原油相場はニュースに反応し約1ドルの下落となった。約500隻の船舶が運河の両側で待機しており正常化まではまだ時間を要するが、閉鎖のこれ以上長期化は避けられた。前週のように運河閉鎖によるサプライチェーン寸断の話題が定期的に蒸し返された高下は収まると思われる。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。