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コロナウイルスによる原油需要の減少
EIAの原油週間統計が発表された。今週の統計には新型コロナウイルスのアメリカ本土での新型コロナウイルスの感染拡大による影響が強まっている。発表された原油在庫やガソリンの在庫が大幅増加となった。内容を見ていきたい。
EIA週間統計
原油と石油製品の在庫
原油在庫が2週連続で1200万バレル以上増加し、ガソリン在庫も1000万バレル積み上がった。留出油についても取り崩しから積み上げに変わった。新型コロナウイルスの感染拡大防止のための移動制限による需要減が見えてきている。
表1 原油・石油製品在庫 (出展元 EIA)
API統計(参考) | EIA統計 | EIA統計前週 | |
原油(万バレル) | 1193増 | 1517増 | 1383増 |
ガソリン(万バレル) | 944増 | 1049増 | 752増 |
留出油(万バレル) | 17減 | 47増 | 219減 |
クッシング在庫(万バレル) | 680増 | 641増 | 352増 |
原油生産と輸出入、戦略備蓄
1日当たりの原油生産は1300万バレルから1240万バレルへ大きく減少した、輸出入に関しては前週と比べて輸出が30万バレルの減少、輸入が10万バレルの減少となった。また戦略備蓄の量には購入による変化は見られない。原油価格の低下と需要減による生産量の低落、輸出入の減少が始まっている。
表2 原油生産と戦略備蓄、輸出入 (出展元 EIA)
原油生産と輸出入 | 今週 | 前週 | 4週平均 | 前年同時期 |
原油生産(万バレル/日) | 1240 | 1300 | 1287 | 1215 |
戦略備蓄(万バレル/日) | 635 | 635 | – | – |
原油輸入(万バレル/日) | 587 | 604 | 614 | 670 |
原油輸出(万バレル/日) | 283 | 315 | 355 | 283 |
石油製品生産量と製油所稼働率
製油所への原油投入量は前週(4週平均)と比べて50万バレル減少となり製油所の稼働率は前年より約5%の低下となった。石油製品ではガソリン生産が前週より100万バレル以上の減少となった。留出油については引き続き横ばいとなった。
表3 石油製品生産量 (出展元 EIA)
製油所稼働率等(4週平均) | 今週 | 前週 | 前前々週 | 前々週 | 前年度同時期 |
原油投入量(万バレル/日) | 1504 | 1556 | 1576 | 1580 | 1599 |
製油所稼働率(%) | 82.9 | 85.6 | 86.7 | 86.9 | 87.3 |
ガソリン生産(万バレル/日) | 805 | 908 | 966 | 987 | 989 |
留出油生産(万バレル/日) | 486 | 479 | 471 | 472 | 493 |
石油製品供給(需要)
石油製品の供給(需要)はガソリンが159万バレルの大幅減となり、ジェット燃料が58万バレル減少とほぼ半減した。一方で留出油の供給は10万バレル増減少したものの前年度とおなじ供給量となり、大きな減少は見えていない。新型コロナウイルス対策の個人(自動車、飛行機)の移動制限の影響が続いており特にジェット燃料の供給は前の週と比べて半減した。
表4 石油製品供給(需要)量 (出展元 EIA)
石油製品 | 今週 | 前週 | 前々週 | 4週平均 | 前年同時期 |
ガソリン供給(万バレル/日) | 506 | 665 | 883 | 756 | 980 |
ジェット燃料供給(万バレル/日) | 75 | 133 | 146 | 132 | 144 |
留出油供給(万バレル/日) | 380 | 390 | 379 | 388 | 377 |
石油製品価格
ニューヨーク港渡しの原油価格は今週は上昇に転じた。ガソリン受渡価格(価格)は今週も値下がりしたが、ディーゼル燃料の受渡価格は若干の上昇となっている。
表5 石油製品受渡価格 (出展元 EIA)
スポット価格(ニューヨーク港渡し) | 今週(4/3) | 前週(3/27) | 2週間前(3/20) | 3週間前(3/13) |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 0.533 | 0.550 | 0.606 | 0.929 |
ディーゼル燃料(ドル/ガロン) | 1.081 | 1.038 | 0.991 | 1.175 |
原油(ドル/バレル) | 28.36 | 15.48 | 19.48 | 31.72 |
世界需要の予測

2020年3月までの実績値と今後のEIAの推計(出展元 EIA)
EIAの集計では2020年第1四半期の世界原油需要は前四半期に比べて日量600万バレルの大幅減少となった。今後の予測では第2四半期に更に需要が減少し、日量1200万バレルに達するとしている。第3四半期以降は新型コロナウイルスの収束により需要が急速に回復する見通しとなっているが、筆者は楽観的な見通しだと考える。また米国の原油生産は原油価格の下落で現在の日量1300万バレルから年内に平均50万バレル減少し、2021年には更に70万バレル減少すると予測している。*なおこの見通しにはOPECプラスの会合での減産を見込んでいない。
今後の見通し
今週のEIA統計では、原油在庫が大幅な積み増しとなった他、ガソリン在庫も生産が今週も大幅に減ったにも関わらず、それを上回る需要の大幅減少のために今週も生産過剰となり大幅に積みあがった。アメリカ国内の個人の移動制限により、自動車用燃料需要、航空用燃料が落ち込んでいることが引き続き明らかに見えている。一方でトラック用の留出油(ディーゼル燃料)の生産と供給は前年同時期を維持している。
トランプ・アメリカ大統領は週末に大手石油会社の幹部と会談を行った。サウジアラビア産・ロシア産原油に対する関税が支援策として浮上していると報道されているが、元々アメリカの原油輸入量は両国合わせても50万バレル規模で大きくないため、新たな火種を生むだけだと考えられており、石油会社も消極的と伝えられている。テキサス州鉄道委員会によると、州内にあるシェール大手石油会社パイオニア・ナチュラル・リソーセズ社やパースリー・エナジー社などは州内の減産を提案しており、来週にもテキサス州独自の減産協議が行われる予定だが400万バレル規模となる可能性がある。
ロシアの増産は今週も確認されていない。一方で、サウジアラビアやUAEは4月1日から予定通りフル生産に入っており、サウジアラビアが3月よりも200万バレル以上、UAEは100万バレル以上の増産が行われた。今日4月9日にOPECプラスにこれまで枠組みに参加していないアメリカ大陸(アメリカ、カナダ)と欧州(ノルウェー、英国)の主要産油国が参加したかたちで緊急会合が行われる。アルジェリアのエネルギー相が昨日語ったところでは減産規模は日量1000万バレルに達する可能性があると述べている。一方で、会合成立のカギとなるアメリカが自然減少ではない実質減産割り当てを受け入れるかどうかに懐疑的な見方のメディアもあり、今日の会合の行方に注目したい。仮に、大規模な減産に合意できれば35ドルに、合意できなければ15ドルとなると筆者は予想している。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。