EIA週間統計の総評
今週発表のEIA週間原油統計は、アメリカで行われた都市封鎖の緩和によって経済活動が再開された後に原油需要の改善が進むかが注目された。発表された主な内容は次の通り。原油在庫が792万バレル増加、製油所の稼働率は引き続き上向き、ガソリンの在庫が72万バレル減少、留出油の在庫は依然として増加となった。原油在庫が増加したものの、製油所の稼働率が上がったことと、ガソリンの需要増が確認されたことで、原油需要が今後回復するとの見方から原油相場は上昇した。今日は、実際に原油需要が回復しているのかどうかを中心にEIAの報告の内容を確認していきたい。
原油と石油製品の在庫
原油在庫は3週ぶりに増加となった。ガソリン在庫は再び減少に転じた。留出油在庫は増加し続けている。クッシングの在庫は339万の減少となった。
API統計 | EIA統計 | EIA統計前週 | EIA統計2週 | EIA統計3週前 | |
原油(万バレル) | 873増 | 792増 | 498減 | 74減 | 459増 |
ガソリン(万バレル) | 112増 | 72減 | 283増 | 351減 | 315減 |
留出油(万バレル) | 690増 | 549増 | 383増 | 351増 | 951増 |
クッシング在庫(万バレル) | 337減 | 339減 | 558減 | 300減 | 206増 |
図1は原油在庫の過去2年分の推移、図2はガソリン在庫の過去2年分の推移、図3は留出油在庫の過去2年分の推移となる。それぞれの油の今年の在庫推移(実線)と過去5年間の在庫レンジ(灰色)とを比較している。どの油種も過去5年の在庫レンジの上限を超えた在庫水準が続いている。



原油生産と輸出入、戦略備蓄
原油生産量は日量1140万バレルとなり、前週の日量1150万バレルから今週も10万バレル減少した。最盛期の1310万バレルに比べて170万バレル減と減産が続いている。1日当たりの輸出が7万バレルの減少したのに対して、輸入は201万バレルの大幅増加となった。戦略備蓄の積み増し量は前週の26万バレルから増加している。
原油生産と輸出入 | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 4週平均 | 前年同時期 |
原油生産(万バレル/日) | 1140 | 1150 | 1160 | 1190 | 1160 | 1250 |
戦略備蓄増加(万バレル/日) | 30 | 26 | 27 | 24 | – | – |
原油輸入(万バレル/日) | 720 | 519 | 539 | 571 | 587 | 614 |
原油輸出(万バレル/日) | 317 | 324 | 352 | 354 | 337 | 344 |
石油製品生産量と製油所稼働率
製油所の稼働率の上昇に応じて、製油所への原油投入量が前週(4週平均)と比べて約6万バレル増加した。ただし、依然として製油所稼働率が平年より約20%低い状態が続いている。製油所での処理量の増加により、ガソリン生産量(4週平均)は前週より日量約11万バレル増加した。留出油の生産量は5万バレルの減少と引き続き生産量は横ばいとなっている。
製油所稼働率等(4週平均) | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 前年度同時期 |
原油投入量(万バレル/日) | 1281 | 1275 | 1264 | 1271 | 1660 |
製油所稼働率(%) | 69.8 | 69.4 | 68.9 | 69.2 | 90.1 |
ガソリン生産(万バレル/日) | 713 | 702 | 678 | 639 | 994 |
留出油生産(万バレル/日) | 489 | 494 | 499 | 499 | 518 |
石油製品供給(需要)
石油製品の供給(需要)ではガソリン供給が日量で46万バレルの増加、週では約320万バレルの供給の増加となった。ジェット燃料の供給は23万バレルの増加と今週も増加が続いているが、例年の4割程度の水準となっている。留出油の供給は40万バレルの減少、週では280万バレルの供給減となった。
製油所でのガソリンの生産量が増加した以上に供給量が増えたことで、ガソリンは在庫減少となった。留出油の生産は引き続き、横ばいだが供給量が減ったことで、在庫の増加速度が上がっている。石油製品全体の供給量は日量1595万バレルとなり、前週の1658万バレルに比べて減少しており、需給が改善したとまでは言えない。
今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 前年同時期 | |
ガソリン供給(万バレル/日) | 725 | 679 | 739 | 666 | 939 |
ジェット燃料供給(万バレル/日) | 86 | 63 | 35 | 51 | 202 |
留出油供給(万バレル/日) | 326 | 366 | 381 | 312 | 428 |
石油製品価格
表5はニューヨーク港渡しの石油製品の価格となる。原油価格は4週連続で上昇しとなった。ガソリン受渡価格(価格)とディーゼル燃料の受渡価格は今週上昇した。ガソリンについては供給量も増えていることから、スタンドからの需要が増加していると考えられる。
スポット卸売価格(ニューヨーク港渡し) | 5/22 | 5/15 | 5/8 | 5/1 | 前年同時期 |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 0.959 | 0.875 | 0.877 | 0.686 | 1.875 |
ディーゼル燃料(ドル/ガロン) | 0.940 | 0.882 | 0.889 | 0.792 | 1.985 |
原油(ドル/バレル) | 33.49 | 29.44 | 24.73 | 19.72 | 58.40 |
更に表6は石油製品の小売価格の全国平均となる。今週もガソリン価格の上昇が続いているが、ディーゼル燃料の価格はほぼ横ばいとなった。ガソリンについては製油所からの供給が増加したにも関わらず、卸売、小売とも価格が上昇したことで確実な需要増加が起きていると考えられる。ディーゼル燃料については卸売価格の上昇は、製油所からの供給減に起因すると考えられること、小売価格がほぼ横ばいであることから、需要はほとんど増えていないと考えられる。
小売価格 | 5/25 | 5/18 | 5/11 | 5/4 | 前年同時期 | |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 1.960 | 1.878 | 1.851 | 1.789 | 2.866 | |
中間グレードガソリン価格(ドル/ガロン) | 2.363 | 2.286 | 2.257 | 2.221 | 3.258 | |
プレミアムガソリン価格(ドル/ガロン) | 2.618 | 2.553 | 2.519 | 2.479 | 3.514 | |
ディーゼル燃料価格(ドル/ガロン) | 2.390 | 2.386 | 2.394 | 2.399 | 3.160 |
今後の見通し
今週のEIA統計では、原油在庫は793万バレルの在庫増加となった。原油輸入量が1400万バレルの大幅増となったことが在庫増加の要因だったが、需給の改善は続いている。輸出入を除いた需給では製油所の稼働率が上向き、原油処理量が50万バレル/週増加したことと、戦略備蓄への積み増し量が前週の約190万バレル/週から210万バレル/週まで増加したことで原油消費量が増加した。アメリカ国内の原油生産量は前週より70万バレル/週減少しており需給は改善している。
石油製品での供給面では、ガソリンは生産量に比べて、製油所からの供給量が増加したことで、在庫が取り崩されている。留出油は今週も生産量が横ばいとなった中、供給量が減少したため在庫の増加スピードが上がっている。
需要面では、石油製品全体の総供給量は前週比で日量63万バレルの減少となり、原油需要が本格的に回復しているとは言えない。ガソリンについては供給量が増加しているにも関わらず、卸売と小売でガソリン価格が上昇しており、市中でのガソリン需要が高まっていると考えられる。対して、ディーゼル燃料は供給量が減ったにも関わらず、価格が横ばいとなっており、需要が増加しているとは言えない状態が続いている。
以上のことから、今週は原油在庫が増えながらも原油需要の回復が続いている。ただし、製油所での石油製品全体の生産量が上向いておらず、本格的に原油消費が回復しているとは言えない。個々の製品ではガソリンについては生産と供給が増加したにもかかわらず、末端での価格の上昇が続いており、需要が本格的に回復する段階に入ったといえる。とはいえ生産量も例年に比べて低い状態であり、需要が回復しきるにはまだまだ時間が必要だと考えられる。航空燃料については移動制限の緩和から今後、需要の上向きが予想される。ディーゼル燃料については、生産量の横ばいが続いている上、製油所からの供給量が減少しても価格の増加が見られなかったことから、全く需要が伸びていないと考えられる。ディーゼル燃料の需要が伸びていないことは、トラック輸送が全く回復しておらず、経済活動が低調であることを意味している。新型コロナウイルス対策の都市封鎖が緩和されて、燃料需要の回復が始まったものの、経済回復に伴う本格的な需要回復と原油価格上昇には更なる時間が必要だと考えられる。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。