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原油余り
昨月の原油先物市場で、期近の5月渡しのWTI原油が急落し、史上初の-40.32ドルの安値を付けた記憶は新しい。この事態の背景としては、WIT原油先物の受け渡し場所のオクラホマ州クッシングの原油備蓄施設に十分な容量がないと判断され、売り手の生産者が支払いを行っても原油を処分する事態となったことにあった。一方で、EIAのレポートによれば、アメリカの原油生産はシェールオイルへの投資削減で、年初の最盛期より日量約100万バレル近く低下しているものの、需要の減少はそれ以上であり、毎週1000万バレル近い在庫が積み上がっている。今日は民間施設の原油備蓄について近況を報告する。
アメリカの原油備蓄
アメリカの原油備蓄は、国家が行う戦略備蓄(SPR)と民間備蓄に分けられる。民間備蓄は自主的に行われる備蓄としての在庫と通常の在庫からなる。原油先物に引き渡しに使われるオクラホマ州クッシングの在庫は後者の民間備蓄の一部に当たる。下表はアメリカの地域別に原油の在庫量を見たもので全米の原油在庫容量は約6億5000万バレルで4月24日時点で5億2000万バレルが埋まっている。この量は備蓄タンク+パイプライン及びタンカー上+一時的な貯油施設の全容量を加えている。在庫割合は表中のタンク内の量から計算している。この他に国家の戦略備蓄が6億3611万バレル(4月24日時点、残容量約16000万バレル)存在する。
タンク容量(万バレル) | 3/27在庫量(万バレル) | 4/10在庫量(万バレル) | 4/24在庫量(万バレル) | タンク使用割合 | ||
PADD1(東海岸) | 総量 | 2241 | 1147 | 1128 | 1113 | |
タンク内 | 1110 | 1092 | 1076 | 48% | ||
PADD2(中西部) | 総量 | 17256 | 13439 | 14740 | 15557 | |
タンク内 | 9059 | 10359 | 11176 | 65% | ||
内オクラホマ州クッシング | 総量 | 7609 | 4282 | 5496 | 6337 | |
タンク内 | 4074 | 5288 | 6129 | 81% | ||
PADD3(メキシコ湾岸) | 総量 | 37066 | 24778 | 26336 | 28053 | |
タンク内 | 18905 | 20463 | 22162 | 60% | ||
PADD4(ロッキー山地) | 総量 | 2532 | 2127 | 2412 | 2437 | |
タンク内 | 1286 | 1516 | 1541 | 61% | ||
PADD5(西海岸) | 総量 | 6248 | 5371 | 5743 | 5620 | |
タンク内 | 3719 | 4050 | 3882 | 61% | ||
全米 | 総量 | 65344 | 46919 | 50361 | 52763 | |
タンク内 | 34082 | 37482 | 39795 | 61% |
今後の見通し
現時点でEIAが把握しているアメリカの原油貯蔵量は約6億5000万バレルとなる。タンク内の量は約4億0000万バレルで、残り容量が約2億5000万バレルとなっている。この他大量の原油がパイプラインや、製油所の貯油施設、タンカー上に存在する。
世界の推定原油備蓄量の内、既に9割が使用されており残容量は4億バレルとの推計が今日アメリカの石油情報会社より出ている。世界の原油需要と生産量の差は約3000万バレルをピークに減産により減少している。ただし、現状の需要推計は日量7920万バレルで、生産量は9280万バレルであり、なお日量1360万バレルの余剰が生じている。このペースでの在庫の積み上がりと、技術的問題から備蓄タンクの容量は95%ほどしか使用できないことを考えると、もはや原油がタンクから溢れるまで残り半月程度がリミットとなる。先月のWTIのマイナス価格はクッシング在庫という限られたストレージで生じたものだが、世界的なマイナス価格という現象が今月見られることになるかもしれない。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。