EIA週間統計の総評
EIAから週間原油統計が発表された。アメリカで都市封鎖の緩和が行われようとしている中で、前週のガソリンの需要増に続いて改善が見られたがどうかが注目された。原油在庫は増加ペースが鈍化したものの、459万バレル増加した。ガソリン在庫は今週も315万バレル減少したことから、需要回復期待が高まり原油相場は一瞬値上がりしたが、留出油の在庫が951万バレルへ急増するなど、石油製品全体では在庫の増加が続いていることから相場は下落した。また、前週から国家戦略備蓄の増加が始まっているが、アメリカ全体の原油貯蔵施設の利用率は今週の在庫増加で前週の61%から62%へ上昇、オクラホマ州クッシングの原油在庫も増加が続き在庫率が81%から83%へ上昇している。今週もEIAの統計の内容を確認しておきたい。
原油と石油製品の在庫
原油在庫の増加量は前週に比べて半減し、500万バレルを割り込んだ。ガソリン在庫の減少傾向は今週も続いている。留出油在庫は今週、増加ペースが上昇した。図1から3は在庫の推移を平年(過去5年間の在庫レンジ)と比較したもので、原油在庫や留出油在庫の増加が続いており最近5年間のレンジを上抜きするところまで、在庫が増加していることが分かる。
API統計(参考) | EIA統計 | EIA統計前週 | EIA統計2週前 | EIA統3週前 | |
原油(万バレル) | 844増 | 459増 | 899増 | 1502増 | 1925増 |
ガソリン(万バレル) | 223減 | 315減 | 366減 | 102増 | 491増 |
留出油(万バレル) | 614増 | 951増 | 509増 | 788増 | 628増 |
クッシング在庫(万バレル) | 268増 | 206増 | 363増 | 477増 | 572増 |



原油生産と輸出入、戦略備蓄
1日当たりの原油生産は前週の1210万バレルから1190万バレルへ減少している。週当たり10~20万バレルの減少が続き、3月中旬頃の1310万バレルと比べると120万バレルの減産となった。この他、輸出が24万バレルの増加、輸入は41万バレルの増加となった。原油価格の低下によって、生産量の低落と需要の減少による在庫の増加が続いている。また、今週は戦略備蓄に日量24万バレルの割合で積み増しが行われている。
原油生産と輸出入 | 今週 | 前週 | 前々週 | 4週平均 | 前年同時期 |
原油生産(万バレル/日) | 1190 | 1210 | 1220 | 1212 | 1220 |
戦略備蓄増加(万バレル/日) | 24 | 16 | 0 | – | – |
原油輸入(万バレル/日) | 571 | 530 | 493 | 540 | 669 |
原油輸出(万バレル/日) | 354 | 330 | 289 | 329 | 232 |
石油製品生産量と製油所稼働率
製油所への原油投入量が前週(4週平均)と比べて約16万バレルの減少となり、製油所稼働率(4週平均)は前年と比べて約20%低下した水準にあるが、稼働率の低下速度が落ちて原油消費量の減少ペースにブレーキが掛かかり、消費が上向く兆しが見えている。ガソリン生産は前週より日量約23万バレルの増加と上向いたものの、依然として平年の6割程度となっている。一方で留出油については引き続き生産量は横ばいとなった。
製油所稼働率等(4週平均) | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 前年度同時期 |
原油投入量(万バレル/日) | 1271 | 1287 | 1341 | 1425 | 1637 |
製油所稼働率(%) | 69.2 | 70.5 | 73.6 | 78.6 | 89.0 |
ガソリン生産(万バレル/日) | 639 | 616 | 634 | 703 | 993 |
留出油生産(万バレル/日) | 499 | 497 | 497 | 492 | 502 |
石油製品供給(需要)
石油製品の供給(需要)ではガソリン供給が日量で80万バレルの増加となっており、前週に続いて増加した。ジェット燃料の供給は29万バレル減少となり、留出油の供給は4万バレルの減少で引き続き横ばいとなった。アメリカでは都市封鎖の緩和によってガソリン需要が拡大している。一方でトラック輸送量や航空輸送量は一定以上に回復しておらず、生産量との間に乖離が生じて、留出油在庫の増加が続いている。石油製品の需要に回復傾向が見られるといえるが、石油製品の供給量全体でみると依然として前週よりも減少が続いており、量自体も前年と比べて約3分の2の近くまで落ち込んだままとなっている。
今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 前年同時期 | |
ガソリン供給(万バレル/日) | 666 | 586 | 531 | 508 | 987 |
ジェット燃料供給(万バレル/日) | 51 | 80 | 61 | 46 | 173 |
留出油供給(万バレル/日) | 312 | 316 | 312 | 275 | 389 |
石油製品価格
ニューヨーク港渡しの石油製品の価格では原油価格が久しぶりに上昇に転じた。ガソリン受渡価格(価格)は製油所からの供給が増えたにもかかわらず、価格が上昇したことから需要増が考えられる。一方で、ディーゼル燃料の受渡価格は下落が止まったが、供給がほぼ変わっていないため、市中在庫が減ったのかどうかの判断は難しい。
スポット価格(ニューヨーク港渡し) | 今週(5/1) | 前週(4/24) | 2週前(4/17) | 3週前(4/10) |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 0.686 | 0.617 | 0.623 | 0.592 |
ディーゼル燃料(ドル/ガロン) | 0.792 | 0.677 | 0.967 | 0.993 |
原油(ドル/バレル) | 19.72 | 15.99 | 18.31 | 22.90 |
今後の見通し
今週のEIA統計では、原油在庫はガソリン需要の増加から原油消費量が伸びたため、増加量は減っているが積み増しが続き、原油貯蔵施設の使用率が62%まで上昇した。戦略備蓄の増加が引き続きみられるが、週120万バレル程度で影響は大きくない。個々の石油製品では、ガソリン在庫が引き続き減少となったが、留出油の在庫が大きく増加している。供給面ではガソリン生産だけは増加しているものの、留出油生産が横ばい、ジェット燃料生産は減少するなど、石油製品全体の生産量は前週比での減少が続いている。以上のことから、都市封鎖緩和や解除による石油製品の需要回復には後しばらくの時間が必要だと思われる。一方で、原油貯蔵の面ではオクラホマ州クッシングの在庫率が83%まで増加している。貯蔵施設の容量は約7610万バレルだが、容量全体の95%程度しか技術的に使えないことを考えると、残り830万バレル程度の容量が残されているに過ぎず、4月末のように原油在庫が溢れるとの見方による大きな売りがいつ入ってもおかしくない状況が続いている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。