目次
はじめに
今日はシェールオイルの生産効率について調べて報告する。
ダイジェスト
- 2020年3月以降リグ数は3分の1へ急減
- 原油生産は3月13日ピークを迎えて以降19.8%の減少
- シェールオイル・ガスの生産効率は向上
原油需要減と設備投資の削減


新型コロナウイルスの流行による需要減により原油価格が急落し、アメリカのシェール業者は設備投資を大幅に削減している。図1は毎週金曜日にベーカー・ヒューズ社発表している稼働中のリグ数となるが、3月7日以降は15週連続で減少している。3月7日に793基あったリグ数は6月19日(最新)時点で266基と3分の1へ減少し、調査開始以来の低水準となった。一方で、原油生産量は3月13日の1310万バレルをピークとして、先週までに260万バレル減と約20%の減少に留まっている。
リグ当たりの原油・天然ガス供給量
原油(バレル/日) | 3月 | 4月 | 5月 | 6月見込み | 7月見込み | 天然ガス(1000cf/日) | 3月 | 4月 | 5月 | 6月見込み | 7月見込み | |
アナダルコ(Anadarko) | 744 | 675 | 551 | 716 | 931 | 4446 | 3994 | 3256 | 4227 | 5496 | ||
アパラチア(Appalachia) | 138 | 133 | 145 | 147 | 148 | 15250 | 14583 | 19631 | 19828 | 20026 | ||
バッケン(Bakken) | 1384 | 1249 | 1109 | 754 | 1357 | 2064 | 1965 | 1830 | 1226 | 2207 | ||
イーグルフォード(Eagle Ford) | 1448 | 1231 | 1288 | 1528 | 1803 | 4936 | 4194 | 4441 | 5246 | 6191 | ||
ヘインズヴィル(Hynesville) | 24 | 22 | 23 | 22 | 22 | 10314 | 9782 | 10976 | 11052 | 11273 | ||
ナイオブララ(Niobrara) | 1233 | 1106 | 1213 | 1276 | 1390 | 4386 | 3843 | 4383 | 4489 | 4893 | ||
パーミアン(Parmian) | 807 | 677 | 717 | 797 | 821 | 1580 | 1347 | 1428 | 1582 | 1630 | ||
平均 | 842 | 730 | 745 | 772 | 798 | 3846 | 3420 | 3867 | 4447 | 5481 |
表1は原油・天然ガスの新規井戸当たり生産量を見たもので、3月から5月までの生産実績と6月と7月の生産見込みを示している。生産量は4月にリグ数の急落を受けて一旦落ち込んだものの、5月以降はどの地域でも生産量が増加しており、平均して原油で約5%、天然ガスで約15%の生産量が増加している。
左図 黒線:リグ数、赤線:新規井戸当たりの生産量
右図 原油生産量の推移
左図 黒線:リグ数、青線:新規井戸当たりの生産量
右図 天然ガス生産量の推移
図3、4はパーミヤンでの原油・天然ガス生産、リグ数、井戸当たりの生産量についてそれぞれ見たもので、リグ数は大幅減少しているが、生産効率の向上により、原油・天然ガスの生産量はリグ数程には減少していないことがわかる。パーミヤン以外の地域においても同様の現象が見られている。
生産再開に向けて
アメリカのシェール業者は原油価格の回復に伴い、増産の準備を行っていることが報道されている。このことは現状の30ドルから40ドルの原油価格で採算が取れる油田が存在するということを意味している。かつて、シェールオイルの登場時には井戸1か所当たりの生産コストは100ドル以上と言われていた。その後、2000年代中旬にはフラッキング技術の開発により生産コストが一気に低下した。折から原油価格が100ドル以上で推移したため、シェール革命と呼ばれる大増産が行われた。2014年以降の原油価格の低迷(最安1バレル26ドル付近)は、多くの業者を倒産させたが、一方で、技術革新により生産コストは年々減少を続けてきた。一例をあげれば、パーミヤンにおける新規井戸1つ当たりの生産量は2013年には日量100バレルに過ぎなかった。それが、直近では表1、図3に示すように日量800バレルを超えており、単純計算では生産コストは8分の1となったと言える。一般的には、シェールオイルの生産コストは原油1バレル当たり30から50ドルと言われているが、生産再開に向けた動きを見ると、実際はより低下しているのではないかと考えている。
今後の見通し
OPECプラスの減産が続く中で、原油価格は回復しており今日の原油先物はおよそ1バレル40ドル付近で推移している。市場の次の話題は現在、日量960万バレルで行われているOPECプラスの減産が8月も延長されるのかという点にあると思う。これには既にロシアが延長に難色を示していると伝えられている。仮に減産を続ければ、現在の原油相場を維持することは困難ではないと考えられるが、既に米国のシェール業者が生産再開が報道されており、価格維持はアメリカの生産増加につながる。ロシアにとっては自国の採算ラインを大きく上回っている以上は現在の規模の減産を続ける意味は薄く、減産量を減らして価格をWTI価格で30から35ドル程度へ下落させることで、アメリカの増産を抑え自国のシェアの拡大を行いたいとの思惑がある可能性があると思われる。この仮定が正しければ、8月の減産幅の維持は行われず、原油価格の下落となる可能性は高い。また、現在世界各国は過剰な原油在庫を抱えている。例えば、アメリカは史上最大となる約21億バレルの原油と石油製品の在庫が積み上がっており、未だ減少の気配が全く見られておらず、需要はまだまだ回復途上にあると言える。この状況に、新型コロナウイルスの第2波による再度の需要収縮が重なれば、7月末から8月にかけて期近の原油相場の暴落が起きる可能性があると筆者は考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。