目次
ダイジェスト
- 原油在庫は再度減少
- 原油在庫は週749万バレルの減少
- 原油輸入の週1278万バレルの大幅減少が在庫減の主因
- 原油輸出は週497万バレルの減少
- 需給調整分(Adjustment、後述)による在庫減少効果は前週と同程度
- ガソリンの在庫は週314万バレル減少
- ガソリンの市場への供給(需要)量が減少したものの、ガソリン生産(供給)量の増加幅が小さかったこと、ガソリン輸入が大幅に減少したことから在庫が減少した
- 留出油在庫は週45万バレル減少
- 留出油生産(供給)量の増加幅(11万バレル)に加えて市場への供給(需要)量が大幅増加(59万バレル)となったことが在庫減少要因となった
- 原油在庫が大幅減少となり、主要な石油製品出荷量は増加となったことを受けて原油在庫と全ての石油製品在庫を加えた石油在庫は21億0800万バレルとなり、暫く振りに約900万バレルの在庫減少に転じた。一方で製油所での精製量が減少しているため、今週も原油需要が増加しているとは言えない
EIA週間統計の総評
今週発表のEIA週間原油統計では、市場予想の320万バレル増加に対して原油在庫が749万バレルの大幅減少となった。製油所の稼働率は78.1%と前週比で0.6%上昇したが、製油所への原油投入量は1430万バレルと前週の1434万バレルから減少した。石油製品では、ガソリンの在庫は314万バレル減少、留出油の在庫は45万バレルの減少となった。一方でオクラホマ州クッシングの原油在庫は94万バレルの増加となり、2週連続の増加となった。製油所の稼働率は上がったものの、原油需要は横ばいとなった。一方で、原油輸入量が大幅に減少したことで、原油在庫が大きく減少する要因となった。原油輸出量は微増だった。
今日は石油製品の需要を中心にEIAの報告の内容を確認していきたい。
原油と石油製品の在庫
原油在庫が749万バレル減少となったため、戦略備蓄を除く民間の原油在庫総量は5億3170万バレルとなった。ガソリン在庫が314万バレル、留出油在庫が約45万バレルの減少となった。オクラホマ州クッシングの原油在庫は94万バレルの増加となり、2週間連続の増加となった。
API統計 | EIA統計 | EIA統計前週 | EIA統計2週前 | EIA統計3週前 | |
原油(万バレル) | 832減 | 749減 | 565増 | 719減 | 144増 |
ガソリン(万バレル) | 361減 | 314減 | 483減 | 119増 | 167減 |
留出油(万バレル) | 303増 | 45減 | 313増 | 59減 | 25増 |
クッシング在庫(万バレル) | 55増 | 94増 | 220増 | 26減 | 99減 |
図1は原油在庫の過去2年分の推移、図2はガソリン在庫の過去2年分の推移、図3は留出油在庫の過去2年分の推移となる。それぞれ図は今年の在庫推移(青線)と過去5年間の在庫レンジ(灰色)とを比較している。どの油種でも大きな変動はなく過去5年の在庫レンジの上限を超えた在庫水準が続いている。



原油生産と輸出入、戦略備蓄(日量)
原油生産量は今週も日量1100万バレルとなり3週間連続で同量となった。生産量の内訳ではアラスカの生産量が増加となり、他の州の減少分を補った。最盛期(1310万バレル)に比べて210万バレルの生産減少となっている。今週の輸出は1日当たりおよそ16万バレルの増加となり、輸入は先週より182万バレル減少して556万バレルとなった。輸入の内訳は日量でカナダ産317万バレル(前週291万バレル)、サウジアラビア産87万バレル(前週142万バレル)、メキシコ産49万バレル(前週133万バレル)、コロンビア産14万バレル(前週33万バレル)、ブラジル産5万バレル(前週22万バレル)等でカナダ産は増加したものの、サウジアラビア産やメキシコ産、ブラジル産やコロンビア産といった南米諸国からの輸入が大きく減少した。戦略備蓄の積み増し量は前週の8万バレルから大きく減少した2万バレルだった。
Adjustmentが大きく前週と同量の76万バレル減となった。Adjustmentは需要と供給それぞれの不確実性(計算のずれなど)のつじつまを合わせて相殺するために需給の計算に加えられる。EIAによると通常は多くても原油投入量の2%程度の量といわれているが、今週も通常の倍以上とかなり多くなっている。
原油生産と輸出入 | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 4週平均 | 前年同時期 |
原油生産(万バレル/日) | 1100 | 1100 | 1100 | 1100 | 1100 | 1230 |
戦略備蓄増加(万バレル/日) | 2 | 8 | 24 | 31 | 15 | – |
原油輸入(万バレル/日) | 556 | 739 | 596 | 654 | 636 | 683 |
原油輸出(万バレル/日) | 254 | 238 | 309 | 315 | 279 | 253 |
Adjustment(万バレル/日) | -76 | -76 | -63 | -5 | -55 | 52 |
*Adjustmentの-はマイナス補正を意味している
石油製品生産量(日量)と製油所稼働率
製油所の稼働率が0.6%上がったものの、製油所への原油投入量は逆に日量約4万バレル減少し1430万バレルとなった。依然として稼働率は70%台に止まり、平年の約94%に比べて大幅に低い。前週と比較してガソリン生産量は日量約5万バレル増加した909万バレル、ジェット燃料の生産は約1万バレル減少した84万バレル、留出油の生産量は約11万バレル増加した486万バレルとなった。ガソリン生産の回復も頭打ちとなっている他、ジェット燃料は例年の4割強と依然として低迷、留出油は4週連続で生産量が増加となった。
製油所稼働率等 | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 4週平均 | 前年度同時期 |
原油投入量(万バレル/日) | 1430 | 1434 | 1403 | 1384 | 1413 | 1723 |
製油所稼働率(%) | 78.1 | 77.5 | 75.5 | 74.6 | 76.4 | 94.3 |
ガソリン生産(万バレル/日) | 909 | 904 | 890 | 879 | 891 | 986 |
ジェット燃料生産(万バレル/日) | 84 | 85 | 74 | 69 | 78 | 194 |
留出油生産(万バレル/日) | 486 | 475 | 462 | 456 | 470 | 536 |
石油製品供給(日量、需要)
石油製品の供給(需要)では前週と比較してガソリン供給が日量12万バレル減少した864万バレル、ジェット燃料の供給は今週も34万バレルの大幅増で126万バレルとなり、例年の3分の2まで回復した。留出油の供給は前週と比べて59万バレルと大幅増加した369万バレルとなった。
石油製品供給(日量) | 今週 | 前週 | 2週前 | 3週前 | 4週平均 | 前年同時期 | |
ガソリン供給(万バレル/日) | 864 | 876 | 856 | 860 | 864 | 921 | |
ジェット燃料供給(万バレル/日) | 126 | 92 | 58 | 80 | 89 | 187 | |
留出油供給(万バレル/日) | 369 | 310 | 377 | 346 | 348 | 356 |
石油製品需給(日量)
前週と比べ、製油所の稼働率が上昇したものの、原油消費量は日量2万バレルの減少とほぼ横ばいとなった。石油製品ではガソリンの生産量が5万バレル増加とほぼ横ばいで、供給量は13万バレルの減少となったがガソリン輸入が日量236万バレルの大幅減となったことから在庫が減少したと考えられる。留出油は生産量が11万バレル増加したのに対し、今週の供給量(需要)が59万バレルの大幅増加となったことで在庫減に転じた。ジェット燃料の生産は1万バレル減少と横ばいだが、供給は今週も34万バレルと大幅に増加し、例年の3分の2程度の需要まで回復してきている。石油製品全体の供給(需要)量は日量1848万バレルと、前週の1812万バレルに比べて約36万バレルの増加となり、原油と主要な石油製品の在庫が減少したことから、全ての石油製品在庫に原油在庫を加えた全石油在庫は21億0800万バレルと前週から約1000万バレルの減少に転じた
石油製品価格
表5はニューヨーク港渡しの石油製品の価格となるが、ガソリン価格とディーゼル燃料の卸売価格は前年同時期と比べての約62%となっている。一方、原油価格が前年同時期に比べて約68%であることを考えると、燃料価格は約6%安い水準に留まっており、需要が完全に回復していないといえるのではないだろうか。
スポット卸売価格(ニューヨーク港渡し) | 7/10 | 7/3 | 6/26 | 6/19 | 6/12 | 前年同時期 |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 1.224 | – | 1.094 | 1.198 | 1.056 | 1.961 |
ディーゼル燃料(ドル/ガロン) | 1.238 | – | 1.130 | 1.210 | 1.102 | 1.981 |
原油(ドル/バレル) | 40.56 | – | 38.53 | 39.72 | 36.24 | 59.99 |
表6は石油製品の小売価格の全国平均となる。ガソリン価格は今週も上昇している。一方でディーゼル燃料の価格は横ばいとなった。ガソリンについては卸売価格の上昇を反映していると考えられるが、ディーゼル燃料については卸売価格の反映が小さく、需要が増えていない可能性があると考えられる。
小売価格 | 7/13 | 7/6 | 6/29 | 6/22 | 6/15 | 前年同時期 | |
レギュラーガソリン価格(ドル/ガロン) | 2.195 | 2.177 | 2.174 | 2.129 | 2.098 | 2.779 | |
中間グレードガソリン価格(ドル/ガロン) | 2.589 | 2.571 | 2.563 | 2.521 | 2.495 | 3.137 | |
プレミアムガソリン価格(ドル/ガロン) | 2.842 | 2.821 | 2.812 | 2.773 | 2.745 | 3.392 | |
ディーゼル燃料価格(ドル/ガロン) | 2.438 | 2.437 | 2.430 | 2.425 | 2.403 | 3.051 |
今後の見通し
6月以降のWTI原油の価格が40ドル付近で推移しているため、アメリカの原油生産が採算に見合う状態が続いているため、生産量が横ばいとなっている。一方で、アメリカ国内では製油所の稼働率が上昇が続いているが、平年と比べた稼働率は大幅に低い。今週は稼働率が上昇したものの原油処理量が横ばいとなった。原油輸入量が前週と比べて180万バレル以上急減したため、原油在庫が749万バレル減少要因となった。今週輸入量の556万バレルは平年の683万バレルにくらべて約130万バレル少なく、仮に来週の輸入量が平年並みだと考えると、単純計算で原油在庫は160万バレル程の増加となるため、原油需要が回復しているとは到底言えない状況だと考えられる。石油製品については、まず航空路の再開で航空需要が戻り始めたため、ジェット燃料の出荷が増え始めた。次にガソリンは市場への供給量はやや減少したものの、生産量などが横ばいとなったため、引き続きガソリン在庫が減少した。留出油は生産量の増加量に比べて市場への供給量が大幅に増加したため在庫が減少したと考えられる。今週は石油製品全体では出荷量が日量1848万バレルと前週の1812万バレルを上回り、原油在庫量が749万バレルと大きく減少したため、全ての石油製品在庫の合計は前週に比べて約1000万バレル少ない21億0800万バレルと減少に転じた。
今週もアメリカにおける新型コロナウイルスの感染拡大が続き、カルフォルニア州やフロリダ州など、感染の特に多い州では再度の経済活動への規制が行われ始めている。燃料需要や景気の先行きは不透明感を増している。原油生産は横ばいとなっており、需要も大きくは回復していないため、現状の原油在庫の増減は輸出入のバランスによって決まる状況が続いている。また、今週もオクラホマ州クッシングの在庫が増加しており、原油の買い手が少ないことを意味している。一方昨日行われたOPECプラスのJMMCでは8月の減産幅を日量770万バレルと7月の960万バレルと比べて190万バレル削減することが決定した(4月以降の減産の不履行分の穴埋めが8月と9月に折半で行われ、8月は100万バレル程度の原油供給増に留まると言われている)。しかし、減産幅の削減決定が伝えられても、報道直後以外は原油価格は大きく反応せず、WTI原油1バレル当たり41.50ドル手前の高値圏に原油価格が張り付く状況が続いている。原油供給増加でも変動しなかったことから次のより大きなニュース(例えば、原油需要の大幅減予測が出るなど)までこの原油バブルは続くのではないかと考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。