エネルギー速報:天然ガス在庫統計と今後の在庫見通し(つらつらコラム7月17日)

ダイジェスト
週間天然ガス在庫
図1 天然ガス在庫量(青線)と5年平均(黒線)、変動幅(灰色)との比較(出展元 EIA)

昨日、EIAが発表した天然ガス在庫量(7月4日から7月10日までの在庫増減)は45Bcf増加で、市場予想の46Bcf増、前週の58Bcf増と比較して在庫増加幅が減少し、平年(5年平均)の63Bcf増を下回った。天然ガス市場は在庫統計には反応薄で、ガスの生産量が今後増加するとの見通しと輸出の低迷懸念で下落した。

7月10日時点の天然ガスの在庫量は平年同時期に比べ15.9%多くなっている。夏の熱波の影響で、今週は在庫の増加スピードが前週よりさらに減速しており、増加量は56Bcfと平年の在庫増加量である63Bcfを3週連続で下回った。

表1 地域別天然ガス在庫量(出展元EIA)

地域別の天然ガス在庫の増減を見てみよう。表1はアメリカの地域別在庫の内訳で南部の沿岸部での在庫減少が今週も続いている。現在の在庫量は3178Bcfと平年と比べて436Bcf、前年と比べて663Bcf多い。ただし、在庫積み上げのペースが減速しており、今後の増加が平年並みの週63Bcf増だとした場合の10月31日時点の在庫予想は4159Bcfとなる。この量はアメリカの天然ガス貯蔵施設の設計容量(4693Bcf)の88.6%、有効容量(4261Bcf)の97.6%に相当し、飽和状態になる可能性は依然として高い。

天然ガス需要と供給

次に天然ガスの需給を見てみよう。表2は7月9日から7月15日までの天然ガス供給の内訳となる。生産量は日量88.9Bcfと前週の89.5Bcfに比べて0.6Bcfの減少となった。輸入ではカナダからの輸入が0.5Bcfの増加だったことで、供給量全体が0.1Bcfの減少となった。

表2 部門別天然ガス供給量(出展元EIA)

表3は表2と同じ期間(7月9日から7月15日)の部門別の天然ガス需要となる。まず、総需要量は84.4Bcfと前週に比べて1.0Bcfの増加となった。発電用需要は41.0Bcfと前週比で0.5Bcf増となり発電用需要の増加が続いている。工業用は20.4Bcfと前週比で0.3Bcfの微増、住宅用・商業用は8.6Bcfと前週比で0.1Bcfの減少と横ばいだった。輸出需要では、メキシコ向けのパイプライン輸出が5.7Bcfと前週比で0.3Bcfの増加、LNG輸出が3.3Bcfと0.2Bcfの微増だった。LNGの輸出は今週も前年実績の半分、年初の3分の1となり低迷が続いている。

表3 部門別天然ガス需要量(出展元EIA)
採掘用リグ稼働数

図2は7月7時点のベーカー・ヒューズ社が発表した原油・天然ガス採掘用リグ数の推移(色はリグの採掘方法の違い)となる。リグ数の合計は258基と前週比5基となり、リグ数の減少は続いているが、今年3月と比較すると減少スピードは大幅に低下している。

図2 原油・天然ガス採掘用稼働リグ数推移(出展元 EIA)

表4は原油と天然ガスの稼働中リグ数の前週からの変化の一覧となる。7月7日の時点のリグ数は、前週に比べて原油採掘用が4基減った181基、天然ガス採掘用が1基減少した75基、その他(表には未記入)2基の合計258基だった。天然ガスのリグ数はほぼ横ばいとなっている。

表4 原油採掘リグ数と天然ガス採掘リグ数の前週比比較と前年比比較(出展元 EIA)
発電総量における天然ガス火力発電量の増加

図3はアメリカ48州(アラスカとハワイを除く48州)での発電方法ごとの発電量を今年と前年で比較したものとなる。2019年に比べて2020年は新型コロナウイルスの感染拡大対策として行われた経済活動の制限で発電総量=電力需要が約5%減少した。発電方法によってこの影響が異なり、天然ガス火力(natural gas)の発電量は9%、再生可能エネルギー(renewables)が5%増加したのに対して、石炭火力(coal)が30%、原子力(nuclear)が4%減少した。これは天然ガス価格の下落により経済性の向上した天然ガス火力の設備を非経済的な石炭火力や原子力の設備より使用していることを意味していて、天然ガス価格が今後大きく上昇しない限り、天然ガス需要中の発電需要が現状の水準で高止まりする可能性があることを示していると考えている。

図3 アメリカ48州における発電方法別発電量の前年比(出展元 EIA)
今後の見通し

昨日の天然ガス相場に対して、在庫統計は重要視されず、ガス生産の増加見通しとLNG輸出の減少見通しを懸念材料として値下がりした。先週来、金融緩和の資金が流れ込んでいることが下値を支える展開となっている。今後新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため全米各地で経済活動の制限が始まる(始まっている)ため今後の天然ガス需要の減少が想定される。最新の天然ガス在庫統計では、7月9日時点の在庫増加量は45Bcfとなり、気温上昇による冷房用の電力需要増加が消費を牽引した。ただし、アメリカにおける盛夏の時期は8月上旬までに当たるため、今後電力需要の頭打ち、気温の低下にによる需要減が予想される。来週の在庫統計に影響は少ないと思われるが、相場は2週間後の気温で動くため、夏が終わることは留意しておきたい。
輸出用需要の減退が続いており、LNG輸出は最盛期の3分の1の水準まで低下している。全世界で新型コロナウイルスの感染拡大による需要減により過剰な在庫(アメリカ貯蔵率74%、欧州貯蔵率84%)を抱えている中、輸出需要の回復は早くとも冬になるのではないかと考えている。
今週開催されたOPECプラスのJMMC会合で8月の減産量は日量770万バレルと7月の960万バレルに比べて縮小することが発表された。にも関わらず、WTI原油価格は1バレル当たり41ドル周辺で高止まりを続けている。現在の価格が今後も維持される場合は、アメリカ国内のシェールオイル生産が本格的に再始動すると思われる。天然ガスはシェールオイルの付随としても産出されるため、天然ガスの生産にも上向きの圧力がかかると考えられる。
以上のことから、今後過剰在庫を材料にした下落が10月末までのどこかで起きる可能性は高いと考えられる。毎週EIAから発表される天然ガス在庫や原油在庫、原油生産を巡る石油・ガス業界のニュースに注意したい。


※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。