目次
ダイジェスト
- アメリカの天然ガス輸出能力は今月までに10.1Bcf/日まで増強
- ハリケーン「ローラ」により9月上旬の輸出は混乱した上、一部の設備が損傷(回復は10月の見込み)
- 9月中旬には輸出が順調となる(設備容量の7割)
- 9月末には一部の設備が定期メンテナンス入り、ハリケーン「ベータ」の残した影響により再度の輸出の混乱が予想される
天然ガス価格の高騰
9月21日の週の天然ガス相場は月曜日の約6%に火曜日の約6%と大幅下落から始まったが、水曜日にはLNGやパイプラインでの輸出が好調なことにより反転し、約10%上昇して取引を終えている。今日はLNGの輸出に注目して現状を調べてみた。
LNG輸出能力
シェール革命以来、天然ガス輸出国に転じたアメリカは、これまでのLNG輸入基地を輸出基地に変えるなど、LNGの輸出インフラ整備を行ってきた。図1は2018年時点のLNGの輸出容量(図1シャドー)の推移を見たもので、2016年には日量1Bcfに満たなかった。その後トランプ政権が成立してエネルギ―輸出への後押しもあり、設備の整備計画が当初より増強されて、2020年6月に作成された図1では9月時点で10.1Bcfまで増強される(当初は9月時点で約9.0Bcfの計画)。設備増強に伴い安価な米国産ガスが輸出(図1実線)は増加を続けてきたが、新型コロナウイルスの大流行により、需要が激減しており設備容量が大きく余る状況になっている。

最新の輸出状況
9月の輸出状況を振り返り、来月以降の輸出状況について予想を立ててみたい。下の表1は出港したLNGタンカーの数と積荷の量、LNG基地へのガスの供給量となる。天然ガスを冷却液化してLNGとするため、基地へのガスの供給が必要となる。
LNGタンカー数 | 輸出量(Bcf/週) | 輸出量(Bcf/日) | 週の初めの時点でのLNG基地へのガス供給量(Bcf/日) | |
8月4週目 (8/27-9/2) | 6 | 21.0 | 3.0 | 4.3 |
9月1週目 (9/3-9) | 6 | 21.0 | 3.0 | 2.8 |
9月2週目 (9/10-16) | 11 | 41.0 | 5.9 | 7.0 |
9月3週目 (9/17-23) | 10 | 37.0 | 5.3 | 6.0 |
9月4週目(9/24-30) | ? | ? | ? | 4.0(22日時点) |
8月最後の週は6隻のタンカーにより合計21.0Bcf(日量3.0Bcf)が輸出された。この週の8月27日に上陸したハリケーン「ローラ」が輸出基地近傍を通過したため、上陸前には使用可能な設備容量の約半分に当たる4.3Bcfが輸出されており、これはEIAによるLNGの輸出予想(図1)とほぼ一致していたが、輸出設備が閉鎖されて輸出が減少した。
9月に入り、ハリケーンによる輸送への影響が残ったため輸出が減少し、6隻のタンカーが21.0Bcfを輸出した。この週のLNG用ガス需要はLNG輸出の減少のため大きく減少した。
9月2週目は輸出施設が再開し、11隻のLNGタンカーが41.0Bcfのガスを輸出した。7.0Bcfはアメリカの設備容量の7割に当たり、2020年年初の水準まで回復している。
9月3週目は順調に推移して10隻のLNGタンカーが37Bcfのガスを輸出し、ガス需要は6.0Bcfと2019年末の水準、図1のEIAの予想を上回る水準となった。ただし、ハリケーン「ベータ」の接近で週の終わりに設備へのガス供給は4.0Bcfへ低下した上、ハリケーンが低速だったため影響は長く残ったと考えられる。
今後の予想
現在、9月のハリケーンによる送電線の損傷でキャメロン(Cameron)LNG基地は長期休止(回復は10月の見込み)、コーブポイント(Cove Point)LNG基地は定期メンテナンスに入っている。また、足の遅かったハリケーン「ベータ」のためLNGタンカー輸送の混乱でLNG基地への供給量が低下していると思わるため、今週の10月1日のEIAの統計ではLNG輸出は落ち込みが予想される。前週の相場の高騰は輸出需要がけん引していたが、その裏で天然ガスの在庫は確実に積み上がっており、冬需要が増加する前の10月前に在庫過剰になる状況を前々から予想している。前週は火曜日に在庫情報が注目されたとの記事があった。輸出需要の減少で、今週在庫へ注目が集まれば、大きく下落するのではないかと考えている。
一方で、LNGの輸出需要はEIAの予想と大きく乖離せず回復傾向にある。2019年までの右肩上がりの成長は見込めないかもしれないが、今後は堅調な輸出が続くのではないかと考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。