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イランの攻撃による高騰とリスク後退による下落
昨日の原油相場は日本時間8時に市場が開いた後、イラクのアメリカ軍基地がイランからの攻撃を受けたと報道されたことで高騰し、日本時間10時過ぎに65.62ドルまで上昇した。イラン革命防衛隊クトゥズ部隊のスレイマニ司令官殺害に対する報復攻撃だったが、戦争となるとの懸念があったため急激に上昇した。日本時間11時頃にはイラン側がイランは戦争を望まないと声明を行いそれ以上の攻撃が停止したことで、市場は落ち着きを取り戻して売りが入った。筆者は高騰をみて買いを入れたが、有事相場長続きせず損失を出してしまった。その後、トランプ・アメリカ大統領が日本時間朝方の攻撃に対してアメリカ兵に被害が出なかったことから、これ以上の軍事行動を行わないと表明し、アメリカとイランの間の緊張はこれ以上高まらないとの見方から売りが加速した。加えてEIAの原油統計で原油在庫が360万バレルの減少予測に対して116万バレルの在庫増加となったことも懸念材料となり、60.00ドルを割りこんで59.96ドルで取引を終えた。今後しばらくは緊張状態の緩和に向けて外交交渉が主になると予想されるので、高騰することはないと筆者は考えている。
EIA週間報告
今週もEIAの週間報告の中身を見ていきたい。以下の表と図は昨日のEIAの週間原油在庫統計の結果と在庫の推移をグラフにしたものとなる。
EIA週間原油統計 | 前週(1/3) | 今週(1/8) |
原油(万バレル) | -1146 | +116 |
ガソリン(万バレル) | +321 | +913 |
留出油(万バレル) | +878 | +530 |
クッシング在庫(万バレル) | -144 | -82 |
図2 原油在庫(出典元 EIA) 図3 ガソリン在庫(出典元 EIA) 図4 留出油在庫(出典元 EIA)
今週の原油在庫(図2)は輸出が減り輸入が増えたため増加した。ガソリン在庫(図3)や留出油の在庫(図4)は製油所稼働率が低下し精製量は減ったものの供給量がそれ以上に減ったため増加した。ガソリンの在庫は過去5年間の上限値(図3灰色)を超えている。留出油在庫(図4青線)は過去5年間の下限値に近い(図4灰色)。
下の表は原油の生産と輸出入の今週と前週、直近4週間の平均と前年同時期を比較したものである。
原油生産と輸出入 | 今週 | 前週 | 4週平均 | 前年同時期 |
原油生産(万バレル/日) | 1290 | 1290 | 1287 | 1170 |
原油輸入(万バレル/日) | 673 | 635 | 661 | 786 |
原油輸出(万バレル/日) | 306 | 446 | 363 | 206 |
アメリカの原油生産は日量1290万バレル(前週比0万バレル、前年比+120万バレル)と横ばい。原油輸入は日量673万バレル(前週比+38万バレル、前年比-113万バレル)と若干増加した。原油輸出は日量306万バレル(前週-140万バレル、前年比+131万バレル)と今週も300万バレル台が続いている。
製油所への原油投入量と、製油所稼働率、ガソリン生産と留出油生産を4週平均で見たものが下の表となる。
製油所稼働率等(4週平均) | 今週(4週平均) | 前週(4週平均) | 前年度同時期(4週平均) |
原油投入量(万バレル/日) | 1693 | 1685 | 1752 |
製油所稼働率 | 92.8 | 92.2 | 96.0 |
ガソリン生産(万バレル/日) | 979 | 1000 | 985 |
留出油生産(万バレル/日) | 527 | 525 | 548 |
今週(過去4週平均)のアメリカ製油所への原油投入量は日量1693万バレルで前週の日量1685万バレルから増加し、稼働率も上昇した。ただし前年同時期に比べて依然として稼働率は低く原油投入量も少なくなっている。
下の表は今週1週間の製油所への原油投入量、稼働率、ガソリンと留出油の生産量についてまとめたものとなる。
製油所稼働率等(週平均) | 今週(週平均) | 前週(週平均) |
原油投入量(万バレル/日) | 1690 | 1728 |
製油所稼働率 | 93.0% | 94.5% |
ガソリン生産(万バレル/日) | 888 | 1017 |
留出油生産(万バレル/日) | 531 | 531 |
今週の製油所稼働率は93.0%と前週から若干低下し、 原油処理量は日量で1690万バレルで前週比38万バレル減少だった。ガソリンの生産は日量888万バレルと129万バレル減少、留出油の生産は日量531万バレルで横ばいだった。
次に供給側のデータを見ていこう。ガソリンとジェット燃料、留出油などの石油製品の供給量をまとめると以下の表となる。
石油精製物 | 今週 | 前週 | 4週平均 | 前年同時期 |
ガソリン供給(万バレル/日) | 813 | 896 | 895 | 873 |
ジェット燃料供給(万バレル/日) | 161 | 197 | 179 | 180 |
留出油供給(万バレル/日) | 337 | 305 | 369 | 295 |
石油製品の1日当たりの供給はガソリンが83万バレル減少、ジェット燃料が36万バレル減少、留出油が28万バレルの増加となった。
下の表は石油製品の輸出についてまとめたものとなる。
石油精製物輸出量 | 今週 | 前週 | 4週平均 | 前年同時期 |
ガソリン輸出(万バレル/日) | 80 | 102 | 82 | 85 |
ジェット燃料輸出(万バレル/日) | 31 | 24 | 26 | 24 |
留出油輸出(万バレル/日) | 142 | 118 | 124 | 130 |
石油製品の輸出は、ガソリンが日量80万バレル(前週比-22万バレル、前年比-5万バレル)、ジェット燃料の輸出は日量31万バレル(前週比+7万バレル、前年比+7万バレル)。留出油は日量142万バレル(前週比+24万バレル、前年比+12万バレル)だった。
以上から原油在庫に対する生産・供給・輸出入の影響をまとめたものが下の表となる。
需給の概算 | 原油 | ガソリン | 留出油 | |
原油生産増減(万バレル/日) | 0 | 製油所生産量(万バレル/日) | 888 | 531 |
製油所投入量増減(万バレル/日) | +38 | 供給量(万バレル/日) | 813 | 337 |
輸出入量増減(万バレル/日) | +178 | 輸出入量 (万バレル/日) | -49 | -117 |
小計(万バレル/日) | +216 | +26 | +77 | |
週換算(万バレル/週) | +1512 | +182 | +539 |
今週は生産量は横ばいで原油処理量も減っているため、原油輸入が増加して輸出が減少したことが原油在庫が増加した理由と考えられる。ガソリン在庫と留出油在庫については生産量が供給量と輸出量を足した量を上回っており、在庫の増加につながっている。
CTFC建玉報告
次にCTFCの発表する最近5週間の建玉について紹介する。
総建玉 | 大口投機家 買玉 | 大口投機家 売玉 | 差引 | 大口当業者 買玉 | 大口当業者 売玉 | 差引 | |
12/3 | 2,163,757 | 531,120 | 103,085 | 428,035 | 769,453 | 1,207,163 | -437,710 |
12/10 | 2,229,813 | 577,216 | 81,677 | 495,539 | 790,720 | 1,275,613 | -501,989 |
12/17 | 2,166,584 | 612,113 | 75,736 | 536,377 | 734,859 | 1,273,627 | -541,963 |
12/24 | 2,114,661 | 625,302 | 75,225 | 550,077 | 719,520 | 1,245,177 | -558,869 |
12/31 | 2,145,567 | 626,848 | 71,991 | 554,857 | 726,110 | 1,275,977 | -567,835 |



図5は先週までの2019年初めから今週までの原油建玉数の推移、図6は建玉数前週比、図7は買越し数を見たもの。前週と比べて大口投機家(ファンド)が買玉を約1500枚増やし、売玉を約3200枚減らしており買越し数が約4700枚増加している。ファンドは買いと見ていると思われる。
まとめと今後の見通し
今週のEIAの石油統計で原油在庫は増加したが、輸出の減少と輸入の増加が理由だと考えられるため、今後も原油在庫の増加傾向が続くとは考えにくい。建玉数については買い越しが増加しており、ファンドは買いと見ていると思われる。
今後の見通しについては、昨日の攻撃後、イランは戦争を望まないとの声明とともにイランの報復攻撃は停止した。今回の攻撃でアメリカ側に死者が出なかったことから、アメリカ側の対応もこれ以上の軍事力の行使は行わず、追加制裁にとどまる見通しで、アメリカとイランとの間で戦争が起きるという懸念はひとまず後退した。今後はアメリカとイランの間あるいは仲介の英独仏とイランの間で、外交交渉が行われると思われ、1バレル60ドル付近に留まると筆者は考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。