目次
ダイジェスト
・ブラジルの大豆の収穫は約9割終了。最後のリオグランデ・ド・スル州も概ね最終段階
・ブラジルの2期目のコーン(サフリナコーン)の主要産地の大半で高温乾燥が続く
・ブラジル南部では嵐の被害はあるが生育は順調
・アルゼンチンのブエノス・アイレス穀物取引所によれば大豆の収穫率は全体で約54.7%、コーンの収穫率は全体で約25.0%
・アルゼンチン産大豆の予想生産量は4200万トン、コーンの予想生産量は4900万トンで据え置き
・アメリカのコーンの作付率は22%(前年64%、平年50%)、発芽率は5%(前年18%、平年15%)。大豆の作付率は12%(前年39%、平年24%)、発芽率は3%(前年9%、平年4%)と依然として大幅に遅延
概要
今日はブラジルとアルゼンチンの天候および収穫、2期作目の作付状況についてレポートする。加えてアメリカのクロッププログレスレポートを解説する。
作付状況
ブラジル
ブラジルの大豆の収穫は最終段階に入っている。最後に残っているリオグランデ・ド・スル州では74%の収穫が終了した。
2期目のコーン(サフリナコーン)の主要な生産地域のうち最南部(パラナ州、マト・グロッソ・ド・スル州南部、サン・パウロ州南部)と最北部では降水が十分にあり生育は順調だが、最南部では雹の被害が出ており約100万トンのコーンに被害が出たと報じられている。ゴイアス州、ミナス・ジェライス州、マト・グロッソ州、マト・グロッソ・ド・スル州の北部では引き続き降水がほとんどなく、地域によっては30日から50日の間、雨がない状態で気温が30度を超える日が続いている。概ね半分のサフリナコーンが乾燥の影響を受けているため、現地の農業コンサルタントは500万トン(干ばつが想定される地域に植えられているサフリナコーン全体の約10%)ほどの被害を想定している。一方でパラナ州では嵐による被害が出ているが、降水はコーン生育に有益となっている。
アルゼンチン
ブエノス・アイレス穀物取引所によるとアルゼンチン産の大豆の収穫は1週間で約8.7%進展し全体で約54.7%となった。北部の収穫が間近に迫っている。大豆の累計収穫量は2680万トン。作柄予想では豊作/大豊作の割合が前週に比べて4%低下した12%(前年9%)となった。土壌水分はやや悪化しているが、約8割の地域で良好となっている。予想生産量は今週も4200万トンで据え置かれた。
コーンの収穫は全体の約25.0%が終了した。前週比で0.4%の増加となった。コーンの累計収穫量は1200万トン。作柄予想では豊作/大豊作の割合が前週に比べて3%低下した16%(前年44%)となった。土壌水分は約8割の地域で良好となっている。予想生産量は今週も4900万トンで据え置き。
天候
ブラジル




図1と2はNOAA(アメリカ海洋大気庁)によるブラジルの降水量予報で、図1は今後1週間(5月9日から5月15日)の、図2は2週間後(5月16日から5月22日)の天気予報で1枚目が降水量、2枚目が降水量の平年からのずれを示している。今後1週間は引き続き大豆・コーン産地の北部や中部の広い範囲で5mm以下と平年の50%から平年並みの雨、所により降雨はほとんどない見通し。一方、南部では5mm~75mmと平年50%程度から平年の150%程度の雨となる見通し。翌週も同様の傾向が続き、北部や中部では5mm~15mm程度と平年の50%から平年並みの雨の地域が広がる見通し。南部では5mm~55mmの雨と概ね平年並みの雨となる見通し。
アルゼンチン




図3と4はNOAAによるアルゼンチンの降水量予報で、図3は今後1週間(5月9日から5月15日)の、図4は2週間後(5月16日から5月22日)の天気予報で1枚目が降水量、2枚目が降水量の平年からのずれを示している。今週はアルゼンチンの大豆とコーンの産地であるパンパ地方の中心部では0mm~35mmと平年並みの降水量となる見通し。翌週も0mm~25mmと平年並みの雨となる見通し。
アメリカの作付状況
5月9日発表のクロッププログレスレポートの内容を紹介する。
コーン
表1はコーンの作付率を示している。作付率は22%(前年64%、平年50%)だった。天候の回復が伝えられているが、作付率平均は前週比で8%の上昇となり、前年の16%上昇、平年の22%上昇を大きく下回っている。コーンベルト西部の南側にあるカンザス州のみ平年並みの作付率となっている。
表中の赤字はコーンベルト西側、青字はコーンベルト東側の州を示しており、*印のついた州は2020年の大豆の作付面積が500万エーカーを超える大豆の主要生産州を示している。
コーン作付率 | 2021年同時期 | 2022/5/1 | 2022/5/8 | 2017-2021 avg. | |
コロラド | 39 | 13 | 23 | 34 | |
*イリノイ | 71 | 7 | 15 | 58 | |
*インディアナ | 44 | 6 | 11 | 39 | |
*アイオワ | 84 | 9 | 14 | 63 | |
*カンザス | 51 | 35 | 46 | 50 | |
ケンタッキー | 70 | 26 | 39 | 55 | |
ミシガン | 44 | 1 | 4 | 22 | |
*ミネソタ | 81 | – | 9 | 48 | |
ミズーリ | 66 | 27 | 32 | 67 | |
*ネブラスカ | 67 | 28 | 39 | 57 | |
ノース・カロライナ | 88 | 80 | 91 | 85 | |
ノース・ダコタ | 33 | – | 1 | 18 | |
オハイオ | 26 | 3 | 5 | 27 | |
ペンシルヴァニア | 31 | 5 | 13 | 20 | |
*サウス・ダコタ | 60 | 3 | 11 | 32 | |
テネシー | 74 | 42 | 64 | 72 | |
テキサス | 75 | 74 | 81 | 77 | |
ウィスコンシン | 46 | 1 | 7 | 29 | |
18州平均 | 64 | 14 | 22 | 50 |
-はデータなし
次に表2はコーンの発芽率の一覧となる。こちらも現在の発芽率は5%で前年の18%、平年の15%と比べて遅れている。
コーン発芽率 | 2021年同時期 | 2022/5/1 | 2022/5/8 | 2017-2021 avg. |
コロラド | 4 | – | – | 4 |
*イリノイ | 43 | – | 1 | 23 |
*インディアナ | 17 | – | 1 | 12 |
*アイオワ | 19 | – | – | 13 |
*カンザス | 24 | 8 | 17 | 23 |
ケンタッキー | 44 | 3 | 14 | 33 |
ミシガン | 5 | – | – | 2 |
*ミネソタ | 7 | – | – | 7 |
ミズーリ | 36 | 3 | 10 | 35 |
*ネブラスカ | 11 | 1 | 4 | 12 |
ノース・カロライナ | 75 | 56 | 76 | 69 |
ノース・ダコタ | – | – | – | – |
オハイオ | 8 | – | – | 6 |
ペンシルヴァニア | 1 | – | – | 3 |
*サウス・ダコタ | 3 | – | – | 2 |
テネシー | 50 | 10 | 25 | 46 |
テキサス | 58 | 62 | 63 | 63 |
ウィスコンシン | 4 | – | – | 2 |
18州平均 | 18 | 3 | 5 | 15 |
-はデータなし
大豆
表3は大豆の作付率の一覧を示している。大豆はコーンより作付が後になるが、今年は12%と前年の39%、平年の24%。コーンベルト西部のネブラスカ州とカンザス州が平年並みの作付率であることを除けは全体的に作業が遅れている。
表中の赤字はコーンベルト西側、青字はコーンベルト東側の州を示しており、*印のついた州は2021年の大豆の作付面積が500万エーカーを超える大豆の主要生産州を示している。
大豆作付率 | 2021年同時期 | 2022/5/1 | 2022/5/8 | 2017-2021 avg. |
アーカンソー | 47 | 23 | 38 | 39 |
*イリノイ | 55 | 5 | 11 | 30 |
*インディアナ | 34 | 3 | 7 | 24 |
*アイオワ | 64 | 4 | 7 | 34 |
カンザス | 25 | 11 | 16 | 14 |
ケンタッキー | 31 | 12 | 19 | 18 |
ルイジアナ | 38 | 59 | 72 | 60 |
ミシガン | 40 | 3 | 8 | 17 |
*ミネソタ | 59 | – | 2 | 25 |
ミシシッピー | 63 | 48 | 64 | 55 |
*ミズーリ | 19 | 5 | 7 | 14 |
*ネブラスカ | 43 | 19 | 28 | 29 |
ノース・カロライナ | 25 | 16 | 28 | 17 |
*ノース・ダコタ | 15 | – | – | 6 |
*オハイオ | 20 | 2 | 4 | 14 |
*サウス・ダコタ | 29 | 1 | 5 | 12 |
テネシー | 24 | 9 | 19 | 16 |
ウィスコンシン | 31 | 3 | 6 | 15 |
18州平均 | 39 | 8 | 12 | 24 |
-はデータなし
降水量と最低気温

図4は今後7日間の降水量予報となっており、コーンベルト東部の広い範囲で0.5インチ(約13mm)の降水、西部では北側を中心に1インチ(約25mm)から2インチ(約50mm)、南側では0.5インチの降水の予報となっている。

図6は7日後の最低気温予報(華氏)となっている。コーンベルト西側ではやや気温が上がり、50℉(摂氏10度)付近の最低気温となるが、五大湖周辺では気温が下がり40℉(摂氏5度)付近の低温となる予報となっている。
今後の見通し
ブラジル産の大豆はほぼ収穫が終了した。前年比で約3割少ないものの1150万の大豆を4月に輸出するなど輸出が本格化している。サフリナコーンの主要産地の大半では高温乾燥の天候が続いている。今週もほとんど雨が降らない見込み。中央部の州では乾燥により約500万トン程度の生産量の引き下げが現時点で予想されている。南部のパラナ州やマト・グロッソ・ド・スル州南部では嵐の被害があったものの降水自体は十分で生育が順調に進んでいる。
アルゼンチンでは大豆とコーンの収穫が進むが、やや乾燥が始まっており作柄予想が悪化している。ただし、ブエノス・アイレス穀物取引所は予想生産量を据え置いている。
アメリカではコーンベルトで気温の上昇など天候が回復に向かっていると伝えられているが、コーンと大豆の作付の進捗は依然として前年より大きく遅れている。
大豆相場は中国でのロックダウンが拡大と経済の落ち込みで、アメリカ産大豆の輸出需要が低下することが懸念材料となっている。コーン相場はアメリカ産コーンの作付が大きく遅れていることは支援材料だが、天候の回復による農作業の進展期待が懸念材料となっている。南米ブラジルの干ばつはまだ材料となっていない。今週木曜日にブラジルのConab(食料供給公社)による5月の穀物報告と、USDAによる5月の需給報告が予定されている。大豆やコーンの予想生産量に大きな変動があれば、相場が大きく動く可能性があるので特に注意したい。また、アメリカとブラジルの天気予報には引き続き注意したい。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。