目次
ダイジェスト
・欧州はロシア産の天然ガス依存を減らすために他地域からのLNG輸入を増やす可能性
・アメリカのLNGへの引き合いの増加
・アメリカのLNG輸出能力は飽和
・欧州のLNG受け入れ能力の飽和、能力増強には4年必要
・LNG輸出自体は好調のため天然ガス相場の現状の水準が続く可能性
概要
ロシアのウクライナ侵攻により欧州とロシアの間の緊張も高まる中で、天然ガス供給のロシア依存割合を下げるため欧州は政策を模索している。これまで欧州は安価なロシア産あるいはロシア経由で供給される中央アジア産の天然ガスに依存しており、LNGの輸入割合は低かった。今後、欧州の天然ガス調達先は多角化していくと考えられる。このほか、欧州ではCO2排出量の削減を目的に石炭火力発電所の廃止が進められる予定であったが、タイムスケジュールに狂いが出る可能性がある。事実、2021年に石炭発電の割合は2020年比で20%伸びている。とはいえ、欧州向け石炭の最大の輸出国もロシアであることや石炭産業への投資禁止政策による採算の伸び悩みなど、代替エネルギーの調達先に苦慮している。
輸入先とエネルギーシフト
欧州は北海油田など域内で天然ガスを生産する他、ロシアからのパイプライン輸入、世界各地からのLNG輸入を行ってきた。以下の表が欧州で消費される天然ガスの供給元の一覧となる。
輸入元 | 供給量(2018年時点) |
域内生産(北海油田、パイプライン) | 8800万トン |
ノルウェー産(パイプライン) | 8500万トン |
ロシア産(パイプライン) | 14500万トン |
中央アジア産(パイプライン) | 1200万トン |
北アフリカ産(パイプラインとLNG) | 2900万トン |
その他LNG | 5100万トン |
合計 | 40900万トン |
ロシア産の占める割合が非常に大きく一朝一夕に減らすことのできる量でないことが分かる。2018年の時点でアメリカ産はLNG全体(上表のその他LNG)の約1割(500万トン、約250bcf)を占めるのみであったが、他に供給元が存在しないこともあり年々供給量が増加しており、2022年1月には1年前の3倍のLNGがアメリカから輸入されている。それではアメリカ産による代替は可能なのだろうか?
設備の限界

図1はアメリカのLNG輸出能力を示している。現在Calcasieu Passの設備の一部がが試運転に入っており13Bcf台の輸出が可能となっている。2021年の平均輸出量は日量11.3Bcfで前年比で2.2Bcf増加した。図を見てわかる通り既存設備はほぼフル稼働状態だったと言える。 アメリカの設備増加は2022年前半に一服し、次に増設されるのは2024年を待たなければならない。これは2021年にCalcasieu Passの基地が完成する前に長期の輸出契約がなかなかまとまらなかったという報道(最終的に中国が契約した)があったように、LNGが世界的にだぶついた時期に多額の費用の掛かる輸出基地の整備が進まなかった事情による。

図2は欧州の天然ガス受け入れ基地の分布となる。欧州で最大の天然ガス消費国のドイツに受け入れ基地がないことを除けば、海岸沿いのほぼすべての国に受け入れ基地が存在している。しかしながら、スペインとフランスの間に天然ガスパイプラインはなく、欧州が元々LNGをリスク分散のために使っていたこともあり、受け入れ能力は限界に達していると報道されている。つまり、受け入れ面から言ってもLNG受け入れ基地の増設が行われない限り、輸入量を増やすことは難しくなっている。建設には順調に行っても4年が必要と見積もられている。
今後の見通し
連日天然ガスは高値を続けている。2021年以前は春になると天然ガスの消費が減るため価格が下落を始めていたが、欧州向けのLNG輸出が好調なこともあって高値を維持している。欧州向けの天然ガス供給は長期にわたってアメリカの輸出がフル稼働し価格を下支えする要因になると思われる。現在の水準から大きく下落することは考えにくい。
ただし、アメリカ国内ではインフレ亢進への対策として天然ガス輸出の制限による価格維持の陳情が上院議員に対して行われて始めており、場合によっては国内向けの政策優先のために天然ガス輸出が制限される可能性がある。
アメリカの天然ガス生産量は増加しているが、なお新型コロナウイルスのパンデミック下の生産減から完全に回復していないこと、環境対策による開発の制限、地球温暖化防止のための化石燃料投資の手控えなどから生産拡大は思うように進んでいない。加えて米国のLNG輸出能力・欧州の受け入れ能力にも限界があり、このまま欧州向けの輸出増加が続かないことは明らかとなっている。結局のところ、ロシア産天然ガスを購入し続けるという選択肢しかないと考えられ、天井知らずの高騰は回避されるのではないかと考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。