目次
ダイジェスト
・OPECプラスの共同技術委員会(JTC)は世界の原油需要の低下と原油余剰の拡大を報告
・OPECプラスは計画通りの増産を決定
・ロシアの採算代替は不可能と表明
・アメリカ上院司法委員会はOPECをカルテルで訴追可能となる決議を実施
概要
5月4日にOPECプラスは5月のJMMC(共同閣僚監視委員会)と閣僚会合を開き6月の増産量を決定した。増産量は日量43.2万バレルで計画通りの増産となった。これに先立つ5月3日に開催されたJTCでは2021年の原油需要を据え置いたが、2022年の原油需要見通しを引き下げており、増産を行わない根拠としている。次回の会合は6月2日に予定されている。
原油需要見通し
5月3日に開催されたJTCでOPECプラスは原油需要の見通しを発表した。2021年の原油需要の伸びをはこれまで通り前年比日量570万バレルで据え置いたが、2022年の原油需要の伸びは日量50万バレル引き下げた前年比370万バレルとした。これはウクライナ戦争の影響や中国などでの新型コロナウイルス流行によるロックダウン再発で世界経済が伸び悩むことを反映している。結果、世界の原油需給は需要を供給が日量190万バレル上回ると予想している。これによりロシアが経済制裁により減産に追い込まれても供給不足懸念は打ち消されると考えられる。加えて中国がゼロコロナを目指し再ロックダウンを各地で行っているため、中国の製油所が4月に日量100万バレルを超える減産を行ったと報じられている。このほかウクライナでの戦争で欧州などで経済が冷え込んでいることから今年の原油需要は下向きとなっていると考えられる。
増産量と減産順守率
表1は今回のOPECプラス会合で決定された加盟各国の生産量の割当となる。ベースラインに向かっての増産が続いている。増産が決定した2021年8月以来、日量で237万バレルの増産が行われた。一方で3月の時点での減産順守率はOPEC側が157%、OPECプラス全体では113%に達しており、日量145万バレルの生産不足に陥っている。増産余力のあるのはサウジ・アラビアやUAE、クェートなど限られた産油国のみとなっており、このことは、ロシア産原油の輸出分(日量約700万バレル)のOPECプラスによる代替が不可能であることを示している。
生産量のベースライン (万バレル/日) | 2022年5月 (万バレル/日) | 2022年6月 (万バレル/日) | |
OPEC加盟国 | |||
アルジェリア | 105.7 | 101.3 | 102.3 |
アンゴラ | 152.8 | 146.5 | 148.0 |
コンゴ | 32.5 | 31.2 | 31.5 |
赤道ギニア | 12.7 | 12.2 | 12.3 |
ガボン | 18.7 | 17.9 | 18.1 |
イラク | 480.3 | 446.1 | 450.9 |
クェート | 295.9 | 269.4 | 272.4 |
ナイジェリア | 182.9 | 175.3 | 177.2 |
サウジ・アラビア | 1150.0 | 1054.9 | 1066.3 |
UAE | 350.0 | 304.0 | 307.5 |
OPEC10国合計 | 2668.3 | 2558.9 | 2586.4 |
非OPEC産油国 | |||
アゼルバイジャン | 71.8 | 68.8 | 69.6 |
バーレーン | 20.5 | 19.7 | 19.9 |
ブルネイ | 10.2 | 9.8 | 9.9 |
カザフスタン | 170.9 | 163.8 | 165.5 |
マレーシア | 59.5 | 57.1 | 57.7 |
メキシコ | 175.3 | 175.3 | 175.3 |
オマーン | 88.3 | 84.6 | 85.5 |
ロシア | 1150.0 | 1054.9 | 1066.3 |
スーダン | 7.5 | 7.2 | 7.3 |
南スーダン | 13.0 | 12.4 | 12.6 |
非OPEC合計 | 1717.0 | 1653.7 | 1669.4 |
OPECプラス合計 | 4385.3 | 4212.6 | 4255.8 |
*メキシコは枠組み内にいるが生産割当からは離脱
今後の見通し
アメリカ議会上院の司法委員会はOPECとそのパートナー国を訴追可能とする「NOPEC(石油生産輸出カルテル禁止)法案」を賛成多数で可決した。ガソリン高騰などのインフレ亢進を受けた動きとなっている。法案は上院で審査されるが可決の場合、OPEC自体や加盟国を連邦裁判所に訴追することが可能となる。OPECプラス加盟国の訴追可能性も指摘されている。
原油需要については未だ中国の原油需要が伸びる推計が多いが、中国では新型コロナウイルス流行に対するゼロコロナ政策とロックダウンが行われている。北京全体の再ロックダウンも時間の問題といわれており、今後の原油需要の減少が確実視されている。中国の需要低下とウクライナでの戦争による欧州経済の減速、OECD諸国とアメリカによる原油備蓄の放出(最大2.4億バレル)が続いていることから、今度原油余りが拡大すると考えられる。このことから現状でのOPECプラスの増産見送りは妥当といえそうだ。
現在、原油相場は欧州のロシア産原油輸入の段階的な禁止により高止まりが続いているが、ロシアからの供給量低下は世界経済の減速による原油需要減少と原油余りにより打ち消されて、下落トレンドへ転換するではないかと考えている。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。