目次
ダイジェスト
・7月のIMFによる2022年の世界経済の予測成長率は3.2%(4月の予測より0.4ポイントの引き下げ)
・先進国では原油価格の上昇とロシアによるウクライナ侵攻でインフレが加速、欧米では前年比で約9%に到達
・今後も世界経済が減速した場合、原油消費が大きく落ち込み原油相場の下落の可能性
概要
7月26日にIMF(世界通貨基金)は最新の世界経済見通しを発表した。2022年の世界経済の実質成長率は3.2%と前回4月の予測と比べて0.4ポイントの引き下げ、2023年の成長率2.9%と前回予想から0.7ポイントの引き下げとなった。世界経済の急減速の懸念が更に強まっている。今回のIMFの予測はロシアとウクライナの間の戦争や新型コロナウイルスの影響で中国の景気が予想以上に減速、欧米のインフレ率が予想以上に進行していることで世界経済が打撃を続けると仮定している。
世界経済見通し
下表が今回、発表された予測を抜粋したものとなる。ロシアのウクライナ侵攻に伴いエネルギー・食料が高騰したこと、新型コロナウイルスの流行でサプライチェーンが混乱していることにより高インフレとなった関係で、世界の多くの国で2022年の成長率が更に引き下げられている。特にエネルギーのロシア依存が高いイギリスやフランス、ドイツで成長率が低下しており、EU全体の成長率は前回の予測から2022年予測、2023年予測共に1.1ポイントの引き下げとなった。アメリカは燃料高による大幅なインフレを要因に前回予測から2022年が1.4ポイント、2023年が1.3ポイントの大幅な引き下げとなった。中国は新型コロナウイルス対策として行われているロックダウンの影響で2022年の成長率は同国が目標とする5.5%を2.2ポイント下回る3.3%(前回4.4%)に低下する見通し。ロシアは前回の予測ほどウクライナ侵攻後の経済制裁の影響がなかったことから2022年の成長率は2.5ポイントの引き上げとなった。そのほか中東+中央アジア+北アフリカは資源高の影響で0.2ポイント引き上げ、中南米はブラジル、メキシコ、チリ、コロンビア経済の拡大で0.5ポイント前回の予測より2022年の成長率が引き上げられた。
日本の2022年の成長率は前回予想より0.7ポイント引き下げられた1.7%、2023年は0.6ポイント引き上げられた1.7%となるが、2021年並みの成長と比較的小幅な影響となる見通し。
2021年実績 | 2022年予測 | 2023年予測 | |
世界全体 | 6.1% | 3.2% | 2.9% |
先進国全体 | 5.2% | 2.5% | 1.4% |
アメリカ | 5.7% | 2.3% | 1.0% |
EU | 5.4% | 2.6% | 1.2% |
ドイツ | 2.9% | 1.2% | 0.8% |
フランス | 6.8% | 2.3% | 1.0% |
日本 | 1.7% | 1.7% | 1.7% |
イギリス | 7.4% | 3.2% | 0.5% |
カナダ | 4.5% | 3.4% | 1.8% |
新興国+発展途上国全体 | 6.8% | 3.8% | 4.4% |
アジア | 7.3% | 5.4% | 5.6% |
中国 | 8.1% | 3.3% | 4.6% |
インド | 8.7% | 7.4% | 6.1% |
欧州の新興国と発展途上国 | 6.7% | -1.4% | 0.9% |
ロシア | 4.7% | -6.0% | -3.5% |
中南米 | 6.9% | 3.0% | 2.0% |
ブラジル | 4.6% | 1.7% | 1.1% |
メキシコ | 4.8% | 2.4% | 1.2% |
中東+中央アジア+北アフリカ | 5.8% | 4.8% | 3.5% |
サブサハラ(サハラ以南のアフリカ) | 4.6% | 3.8% | 4.0% |
インフレ率
表2は先進各国の2022年の消費者物価指数を前年同月比(インフレ率)で見たものとなる。欧米諸国では2021年10月頃からインフレが進み始め2022年2月末のロシアによるウクライナ侵攻でインフレが加速している。
インフレ率(%) | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
アメリカ | 7.5 | 7.9 | 8.5 | 8.3 | 8.6 | 9.1 |
EU | 5.1 | 5.9 | 7.4 | 7.4 | 8.1 | 8.6 |
日本 | 0.2 | 0.6 | 0.8 | 2.1 | 2.1 | 2.2 |
今後の見通し
IMFは2022年の世界経済の成長率を4月の予想より更に引き下げた。ロシアによるウクライナ侵攻を要因とするエネルギーと食料の高騰が特に欧米でインフレを加速させている。また、新型コロナウイルスの影響が続いている中国経済の落ち込みも経済が冷え込む要因となっている。IEA、OPEC、EIAの各機関が発表している7月の原油需要予測は世界経済の減速を反映してそれぞれ引き下げられている。欧米諸国では物価高抑制のため利上げを始めており、アメリカのFRBは今日まで開催されている7月のFOMC後に政策金利を発表するが、レーガン政権時代以来約40年ぶりの高いインフレに対抗するため、約30年ぶりの上げ幅となる0.75%の利上げを6月のFOMCに続いて再度行うとの予想が強い。前回の0.75%もサプライズであったが、今回も1%の利上げのサプライズがありうると予想されている。ただし、アメリカ経済は既にリセッション入りが避けられないとの予想が広がっている。とすれば、アメリカ国内の原油需要は減少することが予想される。これは欧州や中国も同様と考えられ、世界的な原油需要も減少すると考えられる。中長期的には原油相場は低迷するのではないかと考えている。
8月3日にOPECプラスは閣僚会合を開き9月以降の原油生産量についての会合を行う。2020年4月以来行われていた協調減産は8月の生産量引き上げで終了した。原油相場が需要減により減少する可能性があると考えると、現状維持あるいは再減産に入るのではないかと筆者は考えている。続報に注意したい。
※このコラムで紹介している相場の動きの見方や見通しなどは執筆者の主観に基づくものであり、利益の増加や損失の減少を保証するものではありません。